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創作小説:Sync Theory(1) 「拾得物は届けましょう」 #sousaku

 以前に書いていた小説を掲載してみることにしました。よろしければ、ご一読くださいませ。

 なお、サイト「小説家になろう」にも、掲載していますので、縦書きで読むこともできます。
サイト「小説家になろう」での掲載URL:http://ncode.syosetu.com/n6955o/1/
サイト「小説家になろう」での縦書き掲載URL:http://pdfnovels.net/n6955o/main.pdf
サイト「小説家になろう」での掲載URL(携帯版):http://nk.syosetu.com/n6955o/
◇ ◇ ◇


「今日は、大当たりの予感♪」
 心地よい風が、少女、エリシーの頬に触れていく。少女の獲物である前世遺産を谷間から見下ろして、ほくそを笑んでいたところだ。
 谷から延びた一本道の先に白っぽい色の建造物が未だ見ぬ宝物を匿っている…、そんな情景が心の中を満たしていく。実際、建造物までの道は横道も見当たらず、割と平坦である。
 彼女は酒場で仕入れた噂話を頼りにしてここまでやって来た。酒場のようなところで話される噂などはガセネタである確率も高いものだが、今、見える様子だと、未だ手付かずの前世遺産らしいことがわかる。期待が持てそうな雰囲気だったので、エリシーの口から「大当たり」の一言が漏れたのだった。
 この見るからに、闊達そうな少女は、エリシーと呼ばれることが多い。亜麻色の髪を片側で髪帯で結わえ、その蒼い瞳は、未だ見ぬ宝庫である前世遺産に思いを馳せている。この少女の生業は、宝探し屋《トレジャーハンター》、この世界では、割と少数派の職業として認識されている。
 前世遺産、それは、エリシー達が見る世界を成した大異変《ブレーンブレイク》の後に遺された旧世界の遺物。先ほど谷間から見えたのは建物で、その建物全体がその前世遺産である。
 その前世遺産を遺すことになった大異変は、今から約百年くらい前に発生し、その大異変によって現在の世界が構築された。大異変前の世界は、数少ない前世遺産からしか知ることができない。大異変前から生きてきた人間を含む生態系全てに何らかの変化を生じさせたためである。一見、変化のない人間にも、記憶や能力に変化が顕れていた。また、旧世界に存在しなかった新たな生物も誕生していた。
 生物の個体における旧世界に関する記憶は、大異変を前提に書き換えられていることが、一部の識者から伝えられている。そのためか、多くの人が大異変を何ら違和感も無く受け入れていたのだった。
そして、大異変を経た人々の中に「魔法《インターフェア》」を行使する者「魔法使い《リンカー》」が出現していた。魔法使いは、世界に干渉し、様々な現象を構築し発生させる。まさに、お伽噺に登場する魔術師である。
 大異変そのものの原因については、いろいろな説が流れている。最も知られている説としては、大異変は、「アカシック」という存在によって引き起こされた、というものである。そう、魔法の根源たるもの「アカシック」。魔法使い「リンカー」たちの間では、「アカシック」と交信し、「アカシック」を介することによって、魔法を世界に発現させると思われている。
エリシーの傍らに佇む青年が諭すように話しかけた。
「これから先がひと仕事でしょう?、エリシー」
 エリシーの隣でお説教めいた一言をくれた青年は、名をザウルという。一口に言ってしまえば、エリシーの相棒ということになる。彼はエリシーの養父から彼女を託されて、常に同行している。エリシーにしてみれば、兄貴分ということになるのだろう。長身痩躯、そして、長髪に端正な容姿とくれば、よろめく婦女子も多い。しかし、本人は、そういった視線には無関心のようだ。もっとも、エリシーにとって、いくら端正な顔立ちといっても彼は五月蝿いお目付け役でしかないらしい。
 そのザウルの一言の通り、確かに大変な仕事はこれからである。お宝が眠るであろう前世遺産は、一部の防護機能がまだ生きているらしいことが判っている。エリシーたちが仕入れた噂話によれば、近づいて痛い目にあった同業者が数多く…、ナンマイダー(汗)、アーメン(汗)、らしい。といことで、エリシーとザウルは前世遺産からの抵抗をすり抜けて、お宝に辿り着かねばならないわけだ。
「まぁ、いつも通りいくといいけどね」
 エリシーの横顔は、涼しそうに言う。エリシーたちの稼業、宝探し屋、には危険は付き物と言うものだ。
「さてと、ザウル、サクサクっと、谷を下って、準備に入りましょ。お昼ご飯前にはおシゴト終わりたいしね」
「そうですね」
 と、ザウルは頷きつつ、歩を早めた。エリシーも、その後に続いて歩きながら、妄想に耽っている(ニヤ笑)。前世遺産の中には何が眠っているのかなっとか、「賢石」の箱詰めとかぁ、たまには金銀財宝も可(ニヤ笑)……と、ニンマリ顔を浮かべているのだ。傍から見れば、ネジが緩んでいるようにしか見えないだろう。そんなエリシーの緩み具合を見慣れているザウルは、ひたすら視線を前に向けている。もっとも、彼もお宝が気にならないわけではない。例えば、「賢石」は、高価で取引される。庶民には、馴染みのないものであるが、この賢石というのが、割と道士や魔導士の間では、貴重なアイテムであるため、いい商売になる。
 ゴチッ
「いつまでニヤついてるんです?」
 見かねたのか、不意にザウルがエリシーの頭を小突いた。エリシーのネジが緩みきらないうちに、正気に戻したらしい。一方、エリシーはイタイじゃないか…、とばかりに小突かれた箇所を撫でている。
「うっさいわネェ、商売のことを考えて何が悪いってのよぉ」
 エリシーとザウルの付き合いは結構長い、だからといって、この乱暴狼藉は確かに如何なものだろうと思われるが、ザウルの容赦ない性格に慣れているため、エリシーも直ぐに復活したようである。こんな感じで前世遺産までの道中、エリシーとザウルはお宝の話にギャグ?を飛ばしながら谷を下っていった。谷を下る道すじは、かなり狭いが悪路というほどではなかった。二人は途中、湧き水で喉を潤して、さらに、前世遺産へ歩を進めていった。
 そんなこんなで、エリシーたちは谷を下りきったところで、前世遺産から少し離れた草むらに、長期戦になった場合に備えて、必要な物資を入れた荷物を隠した。こんな辺鄙な土地でも、盗賊さん達は元気に働いてたりすることがあるので困るわけだ。しかし、エリシー自身は、こうのたまう。
「お仕事中以外であれば、盗賊さんたちと遊んであげるのだけどね」
 ちなみに、谷から前世遺産までの道程は、ジャングルというわけではなく、草原に近い、見晴らしも割りと良い。つまり、前世遺産に近づくだけなら、誰でもできるということだ。だが、触れられることを拒むように、前世遺産は高い壁面に取り囲まれている。まず、エリシーたちは壁面に沿って前世遺産の門から進入する予定だ。壁面を越えたり、壊したりして、侵入すると、逆に防護機能を刺激することになり、障害を増やすことになるからだ。
そして、エリシーたちは、身に着けた装備を軽く点検していたところだった…
 ウーーッ、ウーーッ、ウーーッ、ウーーッ
「なにっ?」
 二人は、突然のけたたましい警報音に、振り向かされた。警報音は、エリシーたちの目標、即ち前世遺産から鳴り響いていた。エリシーの鼓動が速まった。
「どうやら、先を越されてしまいましたか?」
 平然とした口調でザウルはぼやていた。それでも、前世遺産の状況を把握しようと、ザウルの視線は前世遺産の方向で忙しく動いている。どうやら、前世遺産の防護機能が起動したらしく、機械の作動音があちこちから響いてきた。
「もうっ、ぐずぐずしてらんないわ、突っ込むわよっ」
 ザウルもエリシーが言い終わる前に駆け出していた。駆けながら、エリシーはぼやく。
「ああ、もうっーー、妄想どおりはいかないわね!」
 エリシーのお宝に埋もれた夢は儚くも崩れていくのであった。
------------------------------------------------------------------------------------
 二人が息を弾ませて走っていくと、やがて前世遺産の門が目前に迫って来た。門自体は質素なもので、門柱には、何やら文字が刻まれたプレートが貼り付けられているだけだ。恐らく、この前世遺産に大異変前の呼び名が刻まれているのだろう。しかし、経年変化のためか、読み取ることができそうにない。また、大異変時の地殻変動の影響であろうか、門柱にも亀裂が所々走っている。その門の先には、前世遺産である白い建造物が二人の視界に入ってきていた。
 悲鳴が響き渡った。
「きっ…ゃあぁー、いやぁー、こないでぇ」
 エリシーたちの位置からは見えないが、先ほどの悲鳴を放ちながら、前世遺産の門番である守護機《ガードナー》に氷弾《アイスダーツ》を撒き散らしながら逃げ惑う少女が一人。察するに歳は15、6だろうか、どこかの宗教色の濃い衣装を纏っている。
「うっさい娘ねー」
 その少女からエリシー達までの距離は、まだかなりあるのに、彼女の声は耳を強烈に撃つ程であった。声質がソプラノなのだろう、エリシーとザウルの頭にはカキ氷を食べた後のようにキンキンきていた…
「さて…どうしたもんかしらね」
 両耳を塞ぎつつ頭を抑えるエリシーの顔を、ザウルはジト目でちらっと見て……
「まぁ、守護機に襲われれた普通の人の反応でしょうねぇ」
 どうやら、ザウルはエリシーが普通の人とチガウということを主張したいらしい。そんな主張に対して「アタシのどこがマトモでないという?ガルルッ」と、抗議の視線をエリシーはザウルに向けている。もっとも、あちらの少女も、普通の人ではなさそうであったが…
しっかし、喚きながらも呪文を唱えて、しっかり反撃してるね、あの子」
 魔法《インターフェア》でしっかと応戦してるあたりは、まともな庶民とはとうてい思えない。一方、エリシーと喋っている間にも、ザウルは守護機に対抗する術を構築していた。
「どぉーして、追ってくるのー」
 と、またも、少女から発せられた鼓膜をつんざくような悲鳴。エリシーは「そりゃ、あんたが、守護機にひっかかったからだ!」と心で呟く。ああ、難聴になりそう…
 やっと、前世遺産の門をくぐって着いてみると、エリシーたちの瞳には、そこいらじゅうに蠢く守護機の姿が映っていた。
「あの声で目覚めが悪いのかしらね、ウフフッ」
 そのエリシーの笑い声に反応したのか、幾つかの守護機にすぐに反応があった。
「結構、耳聡いわねっ」
 ちょっとした感想を交え、エリシーは、念を結び心の中で術を唱えていく…
(ラ・グィン…)
 一瞬、エリシーの中に光が拡がり、創造の源たる「アカシック」に触れていく…、ワードが行き交い、有と無のゆらぎから術「空裂刃《ヴィンスラッシュ》」を構築していく…。エリシーの背後には、エリシー独特の光背のような術紋の光が浮かび上がっていた。
術紋は、魔術師が魔法を行使する際に発生する現象である。術紋自体は、物理的な光ではなく、魔術師など特殊な能力を有する者にしか見えない。つまり、魔術師以外は、魔法が構築中であることは判らない。また、術紋は、魔術師や使う魔法によって微妙に異なった模様を見せる。
 エリシーの術紋がいっそう輝き、術の構築を終えたことを示す、そして、力がこもった言葉が紡ぎ出される。
「切り裂けよ!!」
 エリシーの目前で鎌首をもたげた三体の守護機、通称「炎蛇」。その三体を虚空から生じた刃が切り裂いていった。綺麗にスライスされた「炎蛇」はまな板の上の魚の如く地面に散らされていく。
一方、ザウルには、横合いから炎蛇の顎から放たれた灼熱の吐息が襲いかかる。
 ビィィーン、ジュッ
 灼熱の吐息はザウルの立っていた地面を黒く焼け焦げつかせる。生身の人間が、この灼熱の吐息を浴びたら、炭化し原型を留めないだろうことは明白だった。
額に術紋を浮かべたザウルは、中空に舞い、体を捻りつつ、炎蛇の顎から吐き出される灼熱の吐息をかわしていた。そして、構築した力「爆炎弾《バーストブリット》」を解放する。
「撃ち抜けよ!!」
 かざされた手から発せられた魔力、その魔力で構成された力場による散弾が炎蛇の首を三つをフッ飛ばした。本来、「爆炎弾」による力場の散弾は、広範囲に破壊を撒き散らすことができる。しかし、ザウルはあの少女への被害を考えて、破壊範囲を絞って放っていた。
 守護機を排除するために、エリシーとザウルとで、攻撃用の魔法、いわゆる「攻魔法」を連発しているが、二人の腰にはちゃんと剣や銃器も装備されている。なぜ、二人はそれらを使わないのか?。答えは簡単だ、守護機には、現在の武器は、ほとんど通用しないからだ。魔法により強化された弾丸とか、特殊な材質で作られた剣でなければダメージすら与えられない。現在一般的に入手できる武器の性能が守護機を構成する材料に及ばないのだ。普通人ならば、高価で、入手困難な武器を携えてはいないだろう。そもそも、そんな高価な武器=商品を取り引きすることが、エリシーたちの仕事だから、実際に、高価な武器を使うことは滅多にない。それに、ザウルもエリシーも魔法を使えるので、大量の炎蛇が出現しない限り、あまり問題にはならない。今も、あと少しで片が着きそうな気配だ。
「くふっ、それにしても『炎蛇』がいるってことは、やっぱり当たりかしらねぇ。」
 と、エリシーは確信しちゃったようである。炎蛇は、大抵、良いお宝(特に、賢石)が眠っている場所に多く出現する傾向がある。まあ、前世遺産に出現する守護機としてはポピュラーな存在だったりするのだが…。ちなみに、強力な守護機ほど、より良いお宝の傍に出現することが多い。
 自分以外の魔力を感知してエリシーたちの存在に気がついたのか、逃げ惑って?いた少女がエリシーの側に近づいてきた。普通、助けが来れば安心するはずだが、彼女の表情には安堵よりも困惑の色が濃かった。
「そこの方、この者たちを何とか説き伏せられませんか?」
 少女の何気なくご無体な一言が鼓膜に届いた。
「ハイィッイィッ?」
「ばぁすとぶりっと!!、?」
 エリシーとザウルは、一瞬にして脳ミソが空白に包まれていた。そして、エリシーは頓狂な返事をしてしまうし、ザウルなんて、声が裏返って、術を放ってしまう有り様であった(それでも、魔法の散弾が炎蛇を仕留めているのはプロといえる)。二人は、思わず顔を見合わせた。
「あんた、何言ってンの?」
 振りかざした拳に力をこめて一言を放つエリシー。しかし、目前に立つ少女の目は真剣である。少女の姿を改めて観察してみると、ゆったりした法衣がよく似合う美人であった。そんな美人に、この訴えるような眼差しで見つめられたら巷の男どもは下僕になってしまうこと請け合いだろう。
「ですから、話し合いを…」
 さらに、彼女は言い募る。
「あっ痛たたー」
 エリシーは思わず頭を抱えて、その場に座り込んでしまった。どうして、こんなのが、前世遺産に来てるんだろ…。エリシーにして見れば、この少女は「叫ぶ足手纏い」である。
「どうかしまして?」
 彼女は不満気に眉をピクッと吊り上げた。でも、その表情が全然、状況を把握してない証拠とも言える。間違いなく、シロート様だ。仕方なく、エリシーは説明を始める。
「あのウネウネと動き回ってる物体は『炎蛇』と言ってねぇ、人が動かしているわけじゃないの、説得なんてできないの!ネッ、わかったらバンバン、ブッ放してちょーだい」
「はい…?」
 彼女は頭上に大きなハテナマークを浮かべてキョトンとしていた。
 やはり彼女とは意思の疎通が困難なようだ。彼女は「守護機」についても、よく知らないようなので、仕方ないのかもしれない。
説明せねばなるまい。エリシーたちにとっては獲物である前世遺産には、大異変前の旧世界で作られた無人の防護用機械、即ち「守護機」が備え付けられている。守護機は前世遺産への侵入者を察知し、その侵入者を排除する目的で作られたらしい。恐らくは、大異変前から稼動し続けている。その守護機の一つが「炎蛇」である。そこいらの話を簡単に彼女に説明した。しかし、戦闘しながらの説明はまどろっこしいことこの上なかったが……
「ほいっ、炎爆球《フレアボール》っと」
 まるで、キャッチボールでボールを投げるように、エリシーは火球を「炎蛇」の群れに放り込んだ。
「炎蛇はあらかた片付いたわね。ところで、自己紹介しておくわ。あたしは、エリシー。あっちにいるのは、ザウルよ。あんた、名前は?」
 エリシーは、手近に居た「炎蛇」を黒焦げにしたところで、少女に名を尋ねてみた。少女は先ほどの守護機の説明をやっと飲み込んだようだが、まだ、理解しきれていないようで、エリシーからの問いにも、一瞬、きょとんと目を丸く見開いていた。
「…申し遅れました、リスプと申します」
 少し間があったものの、そう応えて、少女の一礼する動作には、気品を感じることができた。
「リスプ…?ひょっとして…」
 今まで、黙々と?魔法を放ち、炎蛇を残骸に変えることに専念していたザウルが振り向き、目を瞬かせる。
「ファロアルト法国の第一皇女様が、確か…」
 どうやら、ザウルには、心当たりがあったようだ。この辺りは、エリシーより年の功といえるかもしれない。
「はい、スマルターク王は私の父ですが…」
 少し傾げた顔も愛らしい。
「へっ?」
 驚愕の表情を見せたエリシーにも、思い当たった。
ファロアルト法国といえば、宗教国家としては、かなり有名で『聖皇国』とも言われ、この世界でも、五指に入るほど大きな国家である。そして、このボケをかましてくれた少女は皇女殿下ということになる。
 そこで、エリシーには疑問が生まれた。それほどのイイトコのお姫様がお供の者も引きつれずに一人でこんなところにいるだろうか…?王族を語る者はそう多くはない。なぜなら、王族の詐称は、重罪か、死刑として処罰されるから。それでも、この種の詐欺は絶えないのが世の中なのだけれど…
エリシーの浮かべた怪訝な表情をリスプ皇女は見逃してはいなかった。
「フフッ、身分をお疑いですね。それでは……」
 愛らしい微笑を浮かべつつ、彼女、リスプ皇女殿下は一振りの短剣を懐から抜き出し、エリシー達に見せてくれた。確かに、短剣の柄にはファロアルト法国の紋章が美しい彫刻と調和して刻まれていた。
「その短剣は確かに本物のようだけど、どうして、お供の者も連れずにいるのかしら?」
 短剣に注視しつつも、エリシーは先ほどの疑問をぶつけてみた。
「それは……」
 リスプ皇女の表情が曇り、口篭る。小刻みに震える短剣が、リスプ皇女の内心を物語っていた。
「ここに来るまでに亡くなったのですね」
 リスプ皇女の沈黙に代わってザウルが応えると、リスプ皇女は頷きを返した。
 恐らく、この前世遺産の別の入り口を使ったルートで、遭遇した悲劇であろう。前世遺産への進入ルートは、複数あるのが普通である。その進入ルートによっては、強力な防護機能が配置されていることがあり、侵入者を頑なに拒むようになっている。皇女一行がとったルートも、そんなルートの一つだったのかもしれない。皇女の共の者は、皇女を逃がすために、盾となったのだろう。そして、一人となったところで、エリシーたちと遭遇したといったところか。
 落ち着きを見せたところで、リスプ皇女は先ほどの短剣を懐に収め、言葉を続けた。
「秘密に事を成さねばなりませんでしたので供の者は小数に限らねばなりませんでした……」
 目を伏せ俯くリスプ皇女の表情は、暗く沈んでいた。確かに、お忍びで訪れるならば、少数で目立たないようにすべきだ。その選択は間違っていない。だからといって、命が失われたことには変わりない。
「わかったわ。あなたの言うことを信じましょ。で、リスプ皇女様はどうしてこんなところに?」
 エリシーは王族に対して使う言葉にしては荒っぽく尋ねた。
そのエリシーの表情は、リスプ皇女と名のる少女の言う事を未だ信じきってはいないことがうかがえた。彼女としてはそう簡単に騙されるわけもいかない。王族詐称の共犯となったら、それこそお尋ね者だからである。
「それは……」
 リスプ皇女は、目を伏せて言い淀む。やっぱり、ワケありのようだ。
「まぁ、いいわ、あたし達のおシゴトの邪魔しないでくれれば…」
 気のないふりをして、前世遺産へ歩き出すエリシー。続いてザウルも歩き出した。何故か、リスプ皇女もおずおずと二人の後に続いてきた。
「…あの…あなた方のお仕事というのは?」
 リスプ皇女は、追いすがるように、問いを投げかけてきた。
「いわゆる探検家って奴ね」
 と、エリシーは自分たちの装備を指差す。エリシーはといえば、小振りのショルダーガードに、ライトな胸あて。そして、腰のベルトには仕事の七つ道具、剣、魔操器、小型のザック。ザウルは、シンプルな魔導着と剣。魔導着はゆったりしているので、内側にいろいろ道具が入ってる。
「探検家ねぇ」
 ザウルはニヤニヤ顔をエリシーに向ける。そのニヤ顔を見て、エリシーの頬は赤くなっていた。それは、『わーってるわよ。チョットかっこつけてみただけよっ。』と言っている。一方、リスプ皇女は、そんな二人を見つめてしばらく怪訝な表情を浮かべていた。
 が、突然、ふっ切れたように……
「あなた方に仕事を依頼したいのです」
「えっ?」
 エリシーは思わず体ごと振りかえった。ザウルも意外そうな顔をエリシーに向けている。
「ちょっと、リスプ皇女様。あたしたちにも予定ってモンがあるのよ。よほどオイシイ話じゃない限り受けられないわよ」
 ザウルがエリシーにチラッと視線を送る。困っている人を前に、エリシーがちょっと商売っ気を出したのが気になったのであろう。エリシーは、ザウルの耳元に顔を近づけて囁く。
「そりゃ、あたしも皇女が困っているのはわかるけど、こっちも生活がかかっているのよ。ちょっとくらい、いいじゃない。」
 二人の素振りに気がついた皇女は、さらに、言葉を続けた。
「わかりました。報酬については、ファロアルトの名において保証いたします。とはいっても今は持ち合わせも多くはありませんので、報酬の保証として、これをお預けします。」
 皇女は、さっき王族の証しとして見せてくれた短剣を再び差し出した。
「よろしいのですか?」
 エリシーはリスプ皇女の気迫に気圧され、思わず丁寧な言葉で応えてしまう。
 皇女は黙ってうなずく。
 エリシーの胸中では、「こりゃ、やっかいかなぁ」と、呟きが洩れた。一方、ザウルは、二人の様子を見ていたが、なぜか黙ったままであった。
「と、とりあえず、仕事の内容を聞きましょう。返事は、それからでもよろしいですか?」
 エリシーは差し出された短剣をリスプに返した。仕事内容も聞かないうちに預かっても困るし、大体、短剣というのは女性の守り刀のように大切なものが多い。そういうものを預かるのは、同じ女性として気が退けたのだ。
 エリシーの求めに応じてうなずくリスプの瞳には、決意の色が見えた。
 結局、エリシー達三人は前世遺産までの道程を少し外れた木陰で休憩することにして、リスプ皇女の話を聞くことになった。既に、炎蛇の群れは鎮圧済みなので、しばらくは問題ないだろう。
 落ち着いたところで、リスプ皇女は事情を語り始めた……
「……事の起こりは、私達に降りたご神託でした……。『宝玉を探せ…歪みを制する者を探せ…』と…、ご存じのこととかもしれませんが、今、私の国は頻発に出現する歪喰獣と幻妖のために、人々は恐怖に怯えています……、そんな事態を何とかしようと、神に祈りを捧げていた時のことです」
 エリシーは以前に耳にしたことを思い出していた。ここ一、二年のファロアルト法国での話。何でも、かなりの被害が出ているが、軍隊や魔導隊が出動してもまったく効果が無かったらしい。
歪喰獣、この世を飲み込もうとする獣。詳しいことは、全く解っていないが、遭遇した者の先に待つのは、破壊と死である。しかし、ファロアルト法国ぐらいの国家であれば、歪喰獣に対応できる魔導師も、多く居たと思われるが、事実としては、多くの被害状況が伝えられるのみであった。
「でもさ、リスプ皇女様、どうして宝玉がここにあるとわかったの?」
 リスプ皇女の顔を伺うエリシー。先ほどまでの話であれば、当然浮かぶ疑問を投げかけた。
「……、神託の中にありました。『遺された地におわす』と……。あ、それから、私のことはリスプと呼んでください。」
 と、リスプ皇女は笑みを浮かべる。リスプ皇女は、髪をツーテールに結わえ、面差しもお姫様らしい。つまり…、美少女なわけで、この美少女の武器「笑み」は、ヤバイ雰囲気を醸し出していた。どうヤバイかというと、ちょっと身持ちの固い男でも、イッパツというヤツである。今の皇女の瞳の奥からは、今は健気さが読み取れた。
「しかし、ひとくちに『遺された地』といっても……」
 そう、ザウルが懸念するのも無理はない。前世遺産自体は、多く存在するわけではないが、それでも、数百箇所はあるだろう。しばらく、黙っていたザウルが、なかなか、いいツッコミを入れてくれる。
「ええ、おっしゃる通りですが、今は神託を信じて少しでも早く災いを遠避けることが先決ですから……」
 確かに、ここの前世遺産はリスプ(一応、お言葉に甘えて)の国から一番近い。要は、近いところから手当たり次第ということらしい。
「ところで、宝玉の特徴とかは、わからないの?」
 エリシーにとっても、肝心のブツの正体が判らないと、前世遺産の中で、見過ごしてしまう恐れもある。
「神託には、具体的な特徴はありませんでしたが………、ん?………もしかして………?」
 リスプは気付いたようである。彼女の表情が見る間に明るくなってきた。
「まぁ、こちらのシゴトのついでだから…」
 エリシーは照れくさそうに頬を指でかきながら答える。エリシーの相棒であるザウルも、文句はなさそうに、ウンウンと頷き続けた。
「でも、ちゃーんと、依頼料はいただきますけどね。で、特徴は?」
 ウィンクを投げて答えると、リスプは半泣き状態に…。泣き顔にも、高貴な可愛らしさ見え隠れしている。皇女という責任のある身分とはいえ、やはり、お供の者を失ったりと、心細かったようだ。傍らのザウルも再度ウンウンと頷いている、この件を承知してくれたらしい。
「あ…ありがとうございます……。えっと、それで、特徴ですが……」
 リスプの説明によれば、宝玉には具体的な特徴はないそうであるが、リスプに対して何らかのリアクションを起こすのだそうである。宝玉が光ったり、踊り出したりするのかもしれない。つまり、リスプには人間宝玉検知器になってもらうことになるだろう。エリシーたちの稼業では、人間宝玉検知器のような変な人間、奇人変人にはたらふく会えるので珍しくはないと言えばそれまでだが。
「でも、どうしてリスプに反応するの?」
 まあ、いくら珍事変事が多い世の中とはいえ、気になるところである。問題の宝玉とやらを探索するためにも必要な情報だ。
「それは……、私が『歪みを制する者』だからだそうです……」
 困惑の表情を浮かべるお姫様。
「はぁ?、どうして?」
 皇女殿下に対して失礼な声を上げてしまったが、話がイマイチ繋がらないのも確かである。
「わかりません、ただ、神託を受けた者が私であることと、神託に『この私と共にー』という一節があったそうです。私は神託が降りた時の記憶はありませんので、側に控えていた神官長からの伝え聞きです」
 つまり、リスプは、神託を受けるために『神懸り』、トランス状態にあったらしい。自分自身に覚えもないのに、「歪みを制する者」はお前だ、と決めつけられれば、気持ちのいいものではないだろう。そこで、エリシーはある単語に思い当たった。そう、神託を受けるためには特殊な能力を生まれながらに持っていなければならない。
「あなたは、巫女《リザレクター》なのですね。」
 ザウルが確認した。それを頷いて肯定するリスプ。
「巫女」、ファロアルト自体が宗教国家なのだから、リスプが巫女であっても納得のいく話ではある。ふと、ザウルは「巫女」という単語が発音された時に、エリシーが訝しげな表情を閃かせたことに気付いた。だが、次の瞬間、その表情は何事もなかったように消されていた。
「ところで、リスプ、この前世遺産で宝玉が隠されている具体的な場所はやっぱり感じないの?」
 「遺された地」、すなわち、ここの前世遺産を指差しながら訊いてみた。
「神託以外のことは、ほとんどわからないのです」
 リスプは沈鬱な色を瞳に浮かべ、俯いてしまった。今までのリスプの話を総合しても、雲を掴むような話ではあることは確かだ。エリシーも思案顔である。
「手間取りそうですね、エリシー」
 ザウルも、軽く眉間に皺を寄せており、先行きが深海の如く深く、底が見えない話と思っているようだ。
「でも、大体、聞きたいことは、聞いたしね」
 エリシーは、リスプに軽く片目をつぶって応えてみせる。
「『宝玉』が見つからなくても手数料はもうらうわよ」
「それでは…」
 リスプは表情に明るさを取り戻し、エリシーとザウルを交互に見つめていた。そのリスプの瞳に応えるように、エリシーは立ち上がり、前世遺産の方へ顔を向ける。その彼女の表情に曇りはなかった。そんなエリシーのやり取りを優しげな瞳で、ザウルは見つめていた。
「さぁ、先を急ぎましょう。リ・ス・プ」
 エリシーはリスプに手を差し伸べると、リスプはしっかりと手を握り返してきた。
------------------------------------------------------------------------------------
 小道を抜け、前世遺産に入るための白い扉の前にエリシー達は移動していた。その扉は、丈夫そうな金属製で、恐らく普通の工具で、壊すことはできないだろう。扉には、鍵を持つ者だけが、この先に進むことができるように、錠が備え付けられていた。それも、前世遺産独特の錠だ。
「襲われませんでしたね」
 リスプが、ポツッと呟いた。確かに、門からここまでは、守護機も襲ってはこなかった。しかし、先ほど、破壊したものが全てであるわけはない、ということをエリシーは経験から判っていた。守護機の目はエリシー達を確実に追っているはずであると。
「リスプ、油断しないでね。ところで、ザウル、開きそう?」
 話の後半部分でエリシーの声のボリュームが数レベル下がっていた。エリシーの眼前、いや、正確には、ザウルの眼前に緊張する場面が展開していたからだ。彼はその白い扉を閉ざす錠を破ろうとしていた。前世遺産に取り付けられている錠は、独特な錠で、専門知識、そして、特殊な工具がなければ、開錠することはできない。それどころか、開錠手順を少し間違えれば、前世遺産特有なカラクリ、即ち、防護システムが一斉に動き出す。さっき殲滅した守護機などの比ではない脅威だ。前世遺産内部のような狭い空間では、圧倒され、瞬く間に屍を晒すことになるだろう。
 無論、エリシーやザウルは、そんなカラクリを相手にできないわけではないが、それだけ時間を消費することは確かである。エリシー自身も、「シゴトはチャッチャッと素早くいきたいし――、ご飯はゆっくりおいしく食べたいし――{ハート}」、というのが、本音である。
「大丈夫です、この錠はいつものカラクリと、そう大して変わりませんよ」
 ザウルの足下には彼専用の道具が散らばっている。敏速に、そして、正確に彼の指先が錠に備えられた閉ざす機能を暴いていく。傍らにいるリスプは、その様子を神妙な面持ちで覗いている。
「わかったわ」
 ザウルはカラクリの専門家《プロフェッショナル》である。彼が「大丈夫」という限り、問題はないだろう。
 ザウルが錠前破り中は、戦力不足になるため、なるべく早く敵を察知する必要がある。エリシーは見張り(かっこよく言えば哨戒)のために、前世遺産を囲む草地に視線を向けていた。草地といっても、芝が生えた庭のような場所である。旧世界の様式のためか、前世遺産の周囲は、なぜかいつも美しい庭になっている。芝が短く刈り揃えられ、雑草一つない。一説によれば、ある種類の守護機が、こういった庭の維持を行っているらしい。
「しかし、こんな時でなければ、遠足の定番、『オムスビ弁当』でも広げて、ゆっくりしたいところよね、ちょっと、殺風景だけど……」
 余裕のためか、愚痴とも願望ともつかない一言がエリシーの口から洩れた。しかし、それも束の間だったようだ。
 バチッ………トスッ
何かが弾けるような音…
 そして、何かが、落ちた……
 気配を探りつつ、エリシーは同伴者たちに注意を促す。
「ザウルッ、リスプッ、お客さんが来てるわっ」
 折角、ちょっと粋なお昼ご飯の風景に浸ろうとしていたエリシーの気分は台無し、握り拳を振るわせている。ザウルの作業を邪魔しないように、彼と背中合わせになるように構える。
「何ですの?」
 やはり、リスプは気付く素振りがない(汗)。シロートだから仕方無いといったところか。それでも、彼女は目線を左右に振らせつつ、辺りを探っているようだ。
「エリシー、あと少し、お客さんを待たせておいてください」
 その一声と共にザウルの鍵盤を叩く音が背中越しに響きだした。錠前破りも最終段階に入ったようである。
「了解。リスプ、攻魔法を準備してっ」
 リスプには未だ敵の正体が、わかっていないようだ、未だ周りをキョロキョロと、視線が泳いでいる。
エリシー、ちょっと溜息。しかし、めげてもいられない、そいつは確実にこちらに気づいている。エリシーはリスプに気がついてもらうためにも、先制攻撃をかけることにした。エリシーは術「雷球燕舞」の構築を開始した…
「雷よ、我が意に従って舞え」
 握り拳ほどの数個の雷球が、エリシーの前に生じ、生を受けたもののように空に螺旋を描いて舞っていき、先ほど探った気配の辺りに集まっていたそれに対し、襲いかかった。
 バチッ!、ボンッ!ボンッ!……
 飛来する雷球に接触して次々と破裂する茂み隠れていたそれ。飛び散る破片からは、小型の守護機であることが判る。
「『雷鼠』か」
 散乱した破片を見て、エリシーはそう判断した。
「え?、何かが弾けた?」
 リスプも、ようやく、その存在に、気がついたようである。この雷鼠という守護機は、侵入者に対して電撃を放つ守護機なのだ。一つ一つは大した電撃を仕掛けてこないが、集まって連携をとった時の電撃は、十分に人を倒せるだけの威力がある。散乱した破片の近くに小鳥が横たわっているのが見えた。恐らく、雷鼠に襲われたのだろう、その体は焼け焦げているだろう。
「リスプ、何でもいいから攻魔法を辺りの茂みにばらまいてっ」
「はいっ」
 弾けるように答え、エリシーの隣に並ぶリスプ。返事に元気があってよろしい。
彼女たちが見つめる茂みが、小刻みに揺れて、守護機の存在を知らせている。茂みの合い間から明滅する赤い光点も見えた。
「あ、それと、どこかに親鼠がいるはずだから見つけたら、教えてね」
 エリシーは経験から雷鼠の特徴を引き出した。雷鼠の親鼠は子鼠を操る。こいつを何とかすれば、子鼠を止めることができる。今、茂みの中からこちらを窺っている大半は、子鼠であろう。
「エリシーさん、それって、あの木の根元にいる大きな鼠…?」
 リスプが指を指す先に、それは……いた。茂みには、ある程度の距離をおいて、樹木が植えられており、木陰を作っている。その木陰に隠れるように、大きな赤い目を光らせた親鼠が、こちらを窺っていた。
「ビンゴ。いい目をしてるわね、リスプ。あ、それから、あたしを呼ぶときは、エリシー、でいいわ」
 エリシーは、親鼠を守るように徘徊している子鼠たちを、お掃除するための術「雷球燕舞」を構築する。エリシーの背後で続いているザウルの作業は佳境である、邪魔はさせない。
「雷よ、我が意に従って舞え」
 子鼠の一群が爆発音と共に弾けた。
 腕輪のような術紋を纏ったリスプも術の構築《エンタングル》を終えたようだ。
「凍てつく槍よ、突き刺され」
 創造された力「冷覇槍」が解き放たれる。冷気を伴う氷槍が、直線的な弾道を描きつつ親鼠に向かっていった。この状況で、親鼠を真っ先に叩くとは、良いセンスをしているが、…。
 ジュッー
虚しく響く蒸発音。
「どーして?、魔法が効かないの?」
 目を丸くして驚くリスプ。突き刺さるはずだった氷槍が、雲散霧消した。本来であれば、突き刺さった氷槍に込められた冷気によって、親鼠は氷付けになるはずだった。しかし、あの親鼠は熱波で迎撃できる機能も備えているようで、迫りくる氷槍を全て蒸気に変えてしまった。この親鼠は、なかなかよく出来ているようだ。この攻撃を合図とするかのように子鼠が次々と茂みから姿を現し、エリシーたちの傍までに肉薄してきていた。
「あの親鼠はなかなか器用な芸を持ってるみたいだから、リスプはご近所の子鼠を抑えて!」
「はいっ」
 リスプの元気な返事がきた。さっきの攻撃が防がれたことにはめげてないようだ。お姫様とはいえ、意外と逞しいのかもしれない。直ぐに、子鼠に向き直り術の構築を開始している。
「まったく、どっかにこの鼠を追い散らしてくれる猫はいないかしらねぇ」
などとぼやきつつ、背後に気を使いながら、親鼠に対して、エリシーは術「雷破戟」を構築していく。親鼠も、エリシーの振る舞いを感知したようだ。エリシーに向けられた赤目が激しく明滅し、まるで、子鼠を屠った相手に対する怒りを表しているようだ。
「雷戟を、振り下ろせ」
 カッ
 親鼠の上空に雷光が生じ、戟を形成したかと思うと、直線状に伸びて親鼠に降り注ぐ。
 ボンッ、バンーー、キューーンッーープスン
 火花が飛び散り、装甲板が焦げ付いていく、そして、灯っていた赤い目に闇が広がっていく。ほどなく、親鼠はその機能を停止していった。
「さすがに、雷を防御する芸は持ってなかったみたいね」
 術「雷破戟」は、本来、かなり強力な術で、生物ならば大熊程度ならアッという間に黒焦げできる。しかし、エリシーは親鼠を破壊するだけに止めた。前世遺産の他の防護機能を起こさないためにも、無駄な破壊は避けなければならない。
「――子鼠が止まった――」
 リスプは、親鼠が機能停止したことをまだわかってないようで、瞠目したままだ。
「大丈夫よ、もう動かないわ」
 エリシーの言葉に、安心したようで、リスプは笑顔を返してきた。気がつくと結構な数の小鼠が芝生に転がっている。後でスクラップ屋にでも持って行ったら、そこそこの値段で引き取ってくれそうな数だ。
「どうして、一斉に全部の子鼠を壊さないのですか?」
 リスプは、首を傾げて質問を投げてきた。即答せずにエリシーは前世遺産の扉へ視線を移した。すると、リスプもつられて視線を移す。そろそろザウルの仕事が終わるタイミングだ。
「それは、子鼠の中には、ある程度の攻撃を受けると連鎖爆発を起こす鼠が混じっていることがあるからです……、エリシー、終わりましたよ」
 代わりにザウルがリスプに説明してくれた。そんな余裕を見せているところから見ても、彼の仕事が完了したことがわかる。
目前の扉は、錠を外されて、僅かに開かれていた。その僅かな隙間から扉の先の室内も覗いている。それにしても、錠を壊さずに、さらに、防護機能も刺激しない開錠技術は、高度なものと言える。仕事を終えたザウルは、道具を片づけ終わって、エリシーたちの方へ振り向いていた。
「はい、解説をありがと。それと、流石にプロの仕事ね」
 エリシーはリスプの相手を務めてくれた礼を述べた後、相棒の仕事っぷりをしげしげと眺めていた。
「そういうことでしたか、物騒な…」
 リスプも、やっと納得顔になったようだ。
グッ…グググッ~~
 ちょっとした間に虫が鳴いた、いやいや、誰かのお腹が鳴った。
 一同は顔を見合わせる。
「そ、そろそろ、お昼ですね(汗)」
 リスプが汗かき辺りを見回す。
さて、鳴いたお腹は誰のでしょう?
 そんな状況を察したらしく、ザウルは道具入れとは別の袋を取り出した。
「あの親鼠がいた辺りが木陰になっていて、丁度いいですね、調査がてらにそこで昼食を頂くとしましょう」
 彼の主張する場所は、三人が入れるくらいの木陰を作っていた。日差しも強くなっていたので、昼食を摂るには丁度いいだろう。ザウルは先にさっさと歩き出していった。エリシーもザックからお弁当箱を取り出していた。
「ザウル~、食事のときぐらい、そのシュミ止めなさいよ」
 エリシーは、相棒の態度を早速非難した。そんなエリシーの突っ込みを無視してザウルは箸で雷鼠の残骸をつついたり、おかずをつついたり、と忙しい。彼はシゴトの役に立つような対象、つまり、あの雷鼠の調査・研究をしながら昼御飯を食べるつもりなのだ。余人から見れば、困ったシュミと言える。普通なら宮仕えの方々みたいに胃に穴が開くのではなかろうか。
「あのぉーー、私もご一緒してよろしいでしょうか……」
 先ほどの謎の?音源らしい方から賛同の申し出があった。彼女はどこから取り出したか、バスケットを既に手にしている。
「あ、忘れてた。リスプも、人の子、お腹は空くよね」
 かなり惚けた一言を宣うエリシーであった。既に、彼女の頭の中は「お弁当」ですっかり埋まっていたらしい。
「忘れないでください~」
 リスプは皇女という立場の人物にしては、かなり情けない顔で反応した。その顔をエリシーは愉しげに眺めている。可愛い。
「どうぞ、どうぞ。」
 と、促すザウルは既に、腰を下ろして弁当をさらに広げていた。リスプは、ちょこんと、エリシーの隣に座り、がさがさっと、何やら、バスケットから取り出す。
「ほー、サンドイッチですかー、手作りですね」
 ザウルも、エリシーも、バスケットの中身を覗いていた。バスケットには、鳥肉やハムなどをメインにしたサンドイッチがテンコ盛りである。女の子が作ったものにしては、意外と量が多いといった印象だ。それにしても、手料理もできるとは、皇女のような『お姫様』にしては教育が行き届いてるようだ。
「いつも城を抜け出すときには、これを作って、持って行きましたから……」
 なるほど、教育ではなく、実践でしたか、リスプ皇女様。エリシーは納得顔を作った。
「それは、楽しい冒険でしたでしょうね」
 ザウルさん、そこで、持ち上げましたね。
「はいっーー」
 何やら、意気投合してる二人。なぜか、リスプは頬を赤らめている。
 その二人の様子を横目で眺めていたエリシーは何やら無理やり食事に集中するように、オムスビを頬張っている。
「あたし、ご飯党なんだけどーー、そっちもおいしそうね」
 と、エリシーは口の端にについた海苔を取って、ゴクッと水筒のお茶を一啜りする。
「私もそちらのオムスビを――と思っていたところです、ということで、お弁当を半分づつ交換しましょう」
「オッケェー」
 リスプの提案に、しばし、至福の時をすごすエリシーたち一行であった。ちなみに、ザウルはというと、リスプと絡んだ後、不気味に静かに、先ほどの親鼠を観察しつつ、昼御飯を平らげていた。
------------------------------------------------------------------------------------
 さて、一同のお腹も満たされたところで、作戦会議を始めることになった。エリシー、ザウル、リスプで、車座になっている。
「この辺とこの辺が怪しそうね」
 エリシーが地面にガリガリと描いた前世遺産の見取り図に小枝で丸をつける。こんな場面があると、プロが今更何やってんでぇい、と思われるだろう。しかし、リスプからの依頼により、当初の目的と違ってきため、段取りを変更する必要があった。エリシーやザウルは、普段から見取り図のような地図は要所を覚えているために必要ないが、リスプのような素人相手には説明のために見取り図が必要になったわけだ。ちなみに、地面に描かれた見取り図は、エリシーが先に立ち寄った町で聞き込んでまとめたものだ。
「しかし、二箇所を同時には攻められませんよ」
 ザウルによる事前の説明では、ここの前世遺産のカラクリは、今までのものと比べ、少々、変わっている部分があるそうだ。昼飯前に開けた扉から奥に行く従って、より複雑なカラクリになっている可能性が高いらしい。そうなると、宝玉とお宝の二つを手に入れるのは手間である。
 その二人の会話中、リスプは神妙に見取り図を覗き込んでいた。
「この建物の造りはどこかで見た気がします」
 不意に、リスプがそんなことを言い出した。
「えっ」
 意外な言葉に、エリシーとザウルは思わずリスプの顔を覗き込むことになった。リスプは、二人の反応にちょっと驚きの表情を見せながら言葉を続けた。
「造りというか…、配置が…、私達の神殿に似ているんです」
 だとしたら…、エリシーには閃くものがあった。
「ちょっと、待って、そしたら、神殿で一番大事なものを置く場所って、判る?」
 エリシーの質問に、リスプは見取り図の一角をしっかりと指し示した。
「…それはやっぱり…、ご神体が置かれるはずのここです」
 モノが神宝である場合、物理的に最も守りの堅い場所であると同時に、霊的にも、あるいは、魔法的にも強固な場所でなければ意味をなさない。リスプの指し示した場所は、正しくそういった場所であった。
「決まったわね」
 エリシーは、片目でザウルに合図した。
「仕方がないですね」
 ザウルも納得したようだ。
 その指し示された場所は、さっき、もめていた場所の一つ、そして、最も危険だと思われる場所でもあった。
エリシーは地面に描いた見取り図を足でかき消して、立ち上がった。
「さて、作戦会議は終了!、ちゃっちゃっと仕事を済ませるわよ」
 グッと握り拳を作って、エリシーはザウルとリスプに合図した。
 そして、三人は前世遺産の次の扉へと急ぐのだった。
------------------------------------------------------------------------------------
 いくつ目の扉だろうか…、ザウルが扉のカラクリを破っていたのだが、なぜか大した抵抗もなく、ご神体が納めてあるだろう部屋の扉の前に到着していた。この扉は、確かに他の扉とは異なっていた。今までの扉は、ほとんど装飾の無い、素っ気無いものであった。しかし、この扉には、その表面に見事な彫刻が彫り込まれていた。その彫刻の様式は、現在のものとは異なるが、宗教的な印象が見える。
「妙ですね…」
 辺りを覗っていたリスプの言葉通りだ。開錠作業時は、リスプとエリシーが哨戒することになっていた。
「そうね…」
 真顔で肯定するエリシーにも、不審の空気が漂っていた。
「何が、変なのでしょう?」
 そんな問いかけをしてくるリスプも、得体の知れない不安を感じているのだろう。
そう、抵抗が無さ過ぎるのだ。
 普通の前世遺産では、守護機に遭遇する、もしくは、扉を破るかすると、何らかの攻撃があるはず。今までの道のりのように、巡回している守護機にも出くわさないなんてことは滅多にない。もっとも、ザウルがカラクリを騙しているため、その分は反応がないはずだが……
「途中の扉で気がついたのですが、既に一部のカラクリが破損状態か作動不能状態になっていました。老朽化していたんだろうと思っていたのですが……」
 ザウルが眉をひそめて述べた一言に、エリシーは引っかかりを覚えた。
「先客がいた?」
 エリシーの眉間にも皺が寄った。
あり得る話だ。今まで同業者に先を越された光景がエリシーの頭を過ぎる。
「かもしれません…」
 ザウルが話を続けようとした、その刹那に、背後から異質な気配が出現した。まるで冷水を背中から浴びせかけられたような。
  ブゥーーン、ブゥーン……
 辺りの空気が捩れて、悲鳴をあげている――
「あれは――」
 その光景を目の当たりにしたリスプの白い肌はさらに蒼白く、そして、小刻みに震えていた。
「――歪喰獣――」
 歪喰獣、それは、世界の裂け目と言われている。どうしてこんなものが出現するかは知られていない。しかし、その恐ろしさは、知られている。その裂け目の深淵に飲み込まれ、吸い込まれたものは、この世にはもう戻っては来ない。過去には一つの町ごと飲み込まれたこともあると聞く。
「よりによって、こんなところに現れなくても……偶然?」
 エリシーも、瞠目したままだった。しかし、急いで次元破壊か聖論理化しないと、エリシーたちの居る空間まで深淵に飲み込まれることになる。幸いにして、出現したばかりで動きが鈍い。
「リスプ、聖論理化の法術は使える?」
 彼女は、巫女であり、法国出身者である。聖論理化の法術を心得ていても不思議ではない。
 リスプは歪喰獣を見据えながら答えた。
「やって…みます」
 どうやら、リスプは聖論理化の法術を心得ていたようだが、その返事には緊張が読み取れた。一方、エリシーは扉の方に振り向き、声を張り上げる。
「ザウルは早く扉を開けてっ、少しでも巻き込まれたらアウトよ」
「わかってます」
 扉で作業にかかっていたザウルにも、緊張が走っていた。
 グシャ、バッキーーーンッ
「まっずーい、もう、歪喰獣の口が拡がりはじめてるっ」
 歪喰獣の口によって穿たれた闇に辺りの備品やら家具やらが飲み込まれ始めた。今響いてきた破壊音は、闇に飲み込まれひしゃげた音だ。エリシーも急いで次元破壊の術を構築し始めた、エリシーの背後に光輪が浮かび上がった。
 先に、術の構築《エンタングル》を始めたリスプは、じっと、歪喰獣を見据えながら術の構築を進めていた。リスプの両腕に発生した術紋は複雑な模様を形成し、さらに、先ほどの術紋より大きいものであった。聖論理化の法術は高度な魔導技術を必要とし、大量の魔力を消費する。精神統一も普通の術以上にかかり、構築にも時間を必要とする――。そして、リスプの両腕の術紋がひと際輝きを増した、彼女は解き放つ、歪喰獣を制する力「次元結晶」を…
「―時空よ、速やかに結晶せよ―」
 刹那の静けさが辺りを包んだ。「次元結晶」は、力の解放時に光や音を伴わない術だ。しかし、歪喰獣が辺りを巻き込む音が止んだことが、歪喰獣の拡大が止まったことを示している。
 チチッーーー
 歪喰獣が徐々に透明なクリスタル状のものに覆われていく。これで、とりあえずは、歪喰獣の浸食は止まるはずである。この大技を放ったリスプは、消耗のためか肩で息をしている。辺りは術の影響が薄れ、空気に正常さが戻り始めた。
「ま――、間に合った…」
 リスプから安堵の声が洩れた。
しかし…
その静寂を押し戻すような気配が生まれたのは直後だった…
 ピキッ、ピキッーー
時間がひび割れる音が響き、三人の鼓膜に届いた。
 歪喰獣を覆ったクリスタルの表面には幾条もの亀裂が刻まれ、広がっていく。
「侵食が…封じられていないっ…、そんな…」
 リスプの悲痛な声が上がった。彼女の構築した術が不完全だったわけではない。しかし、歪喰獣の侵食は止まってない。
 もう、一刻の猶予もならない。
「リスプ、侵食に巻き込まれるわ、下がってっ」
 固まってしまったリスプに注意を促すと、エリシーは一歩前へ進み出た。
 バリバリバリッ
「キャッ」
 一気に、クリスタルが弾け飛んで、その破片がリスプの辺りまで飛んで驚かせたが、リスプに届く寸前で空気に溶け込むように消えていった。術が完全に崩壊し形を維持できなくなったのだ。
 ――異常事態発生――
 刹那、エリシーの術紋が一際強い光を放った。そして、気合とともに、その構築された力「縮退破」が歪喰獣に向けて放たれた。
「退けっ、深遠なる闇よっ」
 ギュンッ、ギューンッ
 解き放たれた無明の力によって、歪喰獣が生み出した闇の輪郭が無理矢理に捩られていく。
そして、歪喰獣は、発条が巻かれるように、ギリギリと徐々に縮んでいる。
 エリシーは、その歪喰獣が縮んでいく光景がぼやけていくのを自覚していた。体の力が抜け…、その場にへたり込んでいく。
「だけど、次元の裂け目に巻き込まれたら、すべてが終わる……」
 ぐっ、と腕を引かれる感覚がエリシーを覚醒させた。腕を引かれた先に目をやると、ザウルが穏やかな面持ちでエリシーを見つめていた。
「あと、もう少しの辛抱です」
「うん」
 エリシーは改めて、気力を振り絞った。
やがて、歪喰獣の闇が完全に消失し、辺りを静寂が包んでいった……
「しっかし、いきなり大技つかっちゃたわよ。割に合わないったら、ありゃしない」
 数瞬の沈黙後、エリシーの一声である。日頃の鍛錬のためか、虚脱感から早く抜けられたようだ。一方、リスプは、まだ顔色がよくないが、エリシーたちの方へ歩いてくる足どりはしっかりしていた。エリシーの気力自体も回復してきているようだ。
 二人の少女が放った術「次元結晶」と「縮退破」。
 どちらの魔法も、対歪喰獣用の魔法であり、並のランクの巫女や魔導師には扱えないシロモノである。そして、おそらく歪喰獣に対して効果のある数少ない術である。
 次元結晶は聖論理化を行う一種である。あの世のもので不安定な歪喰獣をこの世のものに安定的に固着して無力化する方法である。一般に、巫女など浄化系の術を使う魔導師が使う。
一方、縮退破は、毒を持って毒を制するタイプの魔法の一種である。歪喰獣を強力な論理力場で縮退させ、あの世に戻してしまう方法である。
これらの術は、普通の術と比較して、かなりの魔力・精神力を必要とし、そうホイホイと使えるものではない。もっとも、お宝のためなら、これくらいの労を厭うようなエリシーではないが…。今の事態では、エリシーやリスプのような術者が居たから、何とか歪喰獣を消すことができたものの、普通の人では、歪喰獣が発生したら、ひたすら避難するしかない。
大仕事をこなした二人の少女が落ち着いたところで、ザウルが疑問を一つ投げかけてきた。
「何だか、歪喰獣の浸食が早かったような気がしますね」
 撃退劇に参加することがなかったため、冷静に観察することができたザウルが、真っ先に歪喰獣の異変に気がついたようである。
「わたしも、あんなに丈夫な歪喰獣を初めて見ました」
 リスプにしてみれば、故郷で何度も歪喰獣に遭遇しているからだろう。感覚的に歪喰獣の異変を実感していたようだ。
「何か別の力を与えられて強化されていたみたいだったわね」
 エリシーも何度か、歪喰獣には襲われている。やはり二人と同じ違和感を抱いたようだ。つまり、あれは普通(「普通」というのも変であるが…)の歪喰獣とは異質なものと考えてよいだろう。
「対歪喰獣用魔法の一つが効かなかった…」
 浸食の早さ、そして、対歪喰獣用魔法の一つが効かなかった。世間一般的には、あり得ないことだった。この事実が、エリシーの心中に暗い染みを広げていた。
 そんなシリアス感をリスプが打ち破った。
「それにしても、エリシーさんが、『縮退破』を使えるなんて、尊敬ですぅ」
 リスプが、星が飛び散った瞳でエリシーを見つめている。この娘は悩みが少ないらしい…(汗)。それとも、故国での悲劇を思い出したくないのだろうか…。
 確かに、リスプの言う通り、対歪喰獣用魔法を使える魔導師は希少である。また、高い魔力を持っている証でもある。だが、リスプの故国にも対歪喰獣用魔法を使える者は、多く居たはずだが…。
エリシーはリスプがこの場を明るくしようとしてくれているのだ、と解釈した。
「ありがとう、リスプ。でも、この物騒な世界の商売には、結構、必要になるのよ、この術」
 照れ笑いを作って、頬を掻きながら応えつつも、エリシーの視線は、ザウルに向けられた。
「ところで、ザウル、扉の方は何とかなったんでしょうね?」
「一応、終わってますよ」
 当たり前のように肯定の返事があった。エリシーは、改めて扉の方に視線を向けると、既に戒めを解かれて、半開きとなった扉が彼女の瞳に写った。
「ほんとに、ザウルさんはすごいですね。ドロボーさんみたい」
 リスプがさらりと惨い一言を洩らした。彼女の表情には尊敬の念すら読み取れる。まあ、悪気はないのだろうが、美少女の一撃の効果は絶大である。
「そ、そういう評価はあまりうれしくないのですが…、皇女殿下」
 ザウルの額には焦り汗が一筋流れていた…。確かに面と向かって言われるとうれしくない発言であるが、美少女からの一撃とあって、正面切って抗議もできないらしい。リスプの一言はザウルの行動の一面の真実を映していることも確かである。所詮、エリシーとザウルの稼業は、窃盗と紙一重だ(笑)。
「まあ、日頃の行いが悪いってことで。さ、とりあえず、中に入りましょ、皆様方」
 自分の家でもないのに、扉の方へ腕を上げて、案内ポーズをとるエリシーであった。
安堵の面持ちの三人は、この先に、起こる事態を全く思い描くことができなかった。

◇ ◇ ◇


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